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「永遠じゃないもの、かけがえのないものの象徴」として描いたクリームソーダ | 映画監督・枝優花【瞬間クリームソーダ#1】

長い歴史とともに愛され方を変えてきたクリームソーダ。【瞬間クリームソーダ】特集は、クリームソーダを現在進行形で愛するひとが「この瞬間、クリームソーダになにを想うか」を聞いていく連載です。

第1回は、映画『少女邂逅』をはじめ数々の作品を手がける映画監督・枝優花さんにとってのクリームソーダを、お届けします。

たまたまインターネットで「女子高生ふたりがクリームソーダを飲んでいる画像」を見つけたのが昨年の初夏。

それが、映画『少女邂逅』のカットだとわかってはじめて、筆者は映画監督・枝優花さんと『少女邂逅』の存在を知りました。

「クリームソーダが登場する映画」ということで、クリームソーダの特集をしたいなぁとぼんやりと思っていた筆者は、新宿武蔵野館へ足を運び『少女邂逅』を鑑賞してみることに。そこで物語のキーパーソンである紬(つむぎ)の、「クリームソーダ、飲んだことないの? 世界一おいしい飲み物だよ」という言葉に出会います。

その後すぐに、枝さんが『放課後ソーダ日和』という女子高生3人がクリームソーダを飲み歩く連続ドラマも手がけたことを知り、どんどん「枝さんにとってのクリームソーダはどんな存在だろう?」と気になるように。

そこで、『少女邂逅』×『放課後ソーダ日和』番外編で登場する阿佐ヶ谷の喫茶店「ギオン(gion)」にて、クリームソーダをいただきながら、映画とドラマにおけるクリームソーダの位置付けと、枝さんのクリームソーダへの想いをお伺いしてみました。

枝 優花(えだ ゆうか)

1994年3月2日生まれ。群馬県高崎市出身。映画監督、写真家。初長編映画『少女邂逅』が新宿武蔵野館を始め全国公開し2ヶ月のロングランヒットを記録。香港国際映画祭や上海国際映画祭に招待。バルセロナアジア映画祭では最優秀監督賞を受賞。またSTU48やindigolaEnd、KIRINJIなどの多くのアーティスト作品を手掛ける。また雑誌「装苑」にてコラム「主人公になれない私たちへ」を連載中。

(以下、枝優花さん)

クリームソーダ漬けの1年間

映画を公開してから『少女邂逅』のクリームソーダがコラボ販売され、クリームソーダを切り口にドラマを企画したりしました。

だからここ一年は、打ち合わせとかでも気を遣われて、クリームソーダのあるお店を選んでもらったりして。でも私自身はそんなに普段からクリームソーダを飲んでいるわけではなくて(笑)。

だけどいろんな飲み物がある中であえて『少女邂逅』でクリームソーダを登場させたのは、やっぱり私にとって特別な飲み物だからです。クリームソーダは子どもの頃の、とても大切な思い出と結びついているから。

映画中で紬の言う「世界でいちばんおいしい飲み物」というのは、味以上に私の気持ちが反映されています。

父との時間とクリームソーダの記憶

少女邂逅は女子高生ふたりの関係性の変化を中心にした映画。だから映画の中でのクリームソーダも、「女子高生同士の何かを描くためのもの」という見方をされるかもしれません。

けれど『少女邂逅』に関してはそうではなくて、父親と娘をつなぎとめるためのものとして描きました。『少女邂逅』に登場するミユリと紬というふたりの女子高生は私自身の分身みたいなもので、半々くらいで自分の想いや記憶を反映させています。

私にとってのクリームソーダは家族、特に父との思い出。かけがえのない大切な時間の象徴です。

子どもの頃は、父は仕事で忙しかったのであまり一緒に過ごす時間がありませんでした。だけど、たまに帰ってきたときは家族で外食をしたりして。その時だけクリームソーダを飲んでいました。「クリームソーダが世界で一番おいしい飲み物」という劇中台詞は、家族との思い出からきています。

私は家族との時間がとても好きだったし、それが数少ない父との思い出なんです。その記憶にクリームソーダが密接になっている。だから必然的に、クリームソーダも特別な飲み物になったんだと思います。

女子高生にとっての放課後とクリームソーダ

『少女邂逅』の公開後に制作した『放課後ソーダ日和』は、クリームソーダをひとつのテーマにしたドラマにすることが決まっていました。

なのでクリームソーダをどう描くか、というのが物語の肝でした。

『放課後ソーダ日和』は、タイトルの通り「放課後」を中心に物語が進んでいきます。女子高生にとっての放課後をかけがえのない時間として描いているのだけど、クリームソーダは「そのかけがえのない時間は、永遠ではない」ということを示唆する存在として登場させています。

放課後って大人になるとなくなるもの。交友関係も変わるし、今の自分の気持ちとか、どれも永遠じゃないですよね。

クリームソーダも同じで、最初の手元にある状態からどんどん溶けていくことで、形は崩れ、混ざり、変容していく。でも私自身はいろんなことが永遠じゃないこと、形が変わっていくことは自然なことで、変化していくことは、決して悪いことじゃないと思っています。

永遠じゃない時間は、思い出としてかけがえのないものであり続けられる

とある映画の上映初日に行ったとき、お客さんの8割がその監督と同じくらいの年齢の人でした。多分、その監督や作品と一緒に歳を重ねてきたのかなと。そうやって監督が成長していくのを、お客さんも同じように歳を取りながら見届けていくのは面白いなと思いました。

変わらないことが大切に思われがちですが、私の感覚は日々更新されていっています。たとえば、20代のときに興味があることが、30代になった途端全くどうでもよくなることもあるだろうし。でもそれでいいと思うんですよね。自分の考えや思い出は、残してきた作品と同じように、消えて無くなるわけじゃないから。

『放課後ソーダ日和』のクリームソーダは、女子高生の関係性や放課後が、永遠ではなく限られたモノであることの象徴と言いました。けれどその時の思い出は、その人が生きていく中で永遠に残り続けるものであると思います。

私自身、たぶん来年は今年以上にクリームソーダを飲むことはないだろうと思うのですが。だからといって、家族の思い出やクリームソーダをテーマに連続ドラマをつくった記憶まで変わったり消えたりすることはないわけで。全部かけがえのない思い出として、きっとこれからも私にとってクリームソーダは特別で大切な飲み物です。

文/小山内彩希
写真/土田凌

作品情報

『少女邂逅』
2019年1月16日(水) Blu-ray&DVDリリース

<Blu-ray【監督・枝優花 完全監修パッケージ仕様】>
価格:¥5,800+税 /枚数:Blu-ray1枚組 /品番:PCXP.50618


<DVD>
価格:¥3,800+税 /DVD1枚組 /品番:PCBP.53868

<収録時間>
本編約101分+映像特典
※映像特典はBlu-rayのみ

<Blu-ray限定特典>
・仕様:アウターケース
・封入特典:特製52Pフォトブック
・映像特典:メイキング
※DVD商品には上記特典は付属・収録されず本編ディスクのみとなります。

枝優花監督『放課後ソーダ日和-特別版-』
3月22日〜、アップリンク吉祥寺ほか限定公開!
放課後ソーダ日和
(c)2018 ALPHABOAT・SPOTTED PRODUCTIONS

『21世紀の女の子』テアトル新宿ほか公開中

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探求者

小山内彩希

編集者・ライター。1995年生まれ、秋田県能代市出身。

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